shiganosato-gotoの日記

星の巡礼者としてここ地球星での出会いを紹介しています。

2024『星の巡礼・孤高のバックパッカーを偲びて』  

         『星の巡礼・孤高のバックパッカーを偲びて』

 

 

 

<作者の矢野会員は、10月31日に逝去されました>

同人誌『文芸北広島』2024.1 第40号 記念号、95頁に掲載された友の遺稿となった

ドキュメント「哀愁のナイアガラ 35歳の蹉跌」の最終行に、訃報が紹介されていた。

 

北広島市は、北海道の真ん中より少し西側、札幌市の隣に位置している。

「広島」という名前がついているのは、明治 16 年(1883 年)に広島県の人が

入植したのがまちの始まりであることに由来している。

友は、北広島の住人であった。

 

 

バックパッカーの幸せとは、その人のこころの中にある。

それは、想いを温め、計画を立て、実行に移し、記録にまとめることで成就する。

そして、年齢と共にこころの中で熟成させ、咀嚼し、味覚にまで仕上げて、

おのれの幸せに振りかけて愉しむのである。

友は、幸せを創り上げ、幸せを愉しむ達人であった。

友は、この世での幸せを大切にし、幸せを掘り起こすことのできた人であった。

その幸せを、同人誌 『文芸北広島』 に、大切に育んできた玉珠のエッセイとして

発表していた。

友は、必ずこのエッセイのコピーに、東広島での日常を俳句にしたため、

一筆を添えて送ってくれたものである。

 

2021年1月・第37号、同人誌 『文芸北広島』に投稿された紀行文『北海道の火山

十勝岳)』を、わたしのブログで取り上げたことがあった。 

そこには十勝岳の初登頂は、1912年武官として北海道旭川駐屯地に派遣されていた

オーストリア陸軍レルヒ中佐であったとの記述があり、

その登頂日がわたしの百名山登頂日と同日であったことから興味を持ち、

登山関係者に知らせるべき筆を執るにあたって、

矢野氏に許可をもらうべき打診したことがあった。

実直な友らしい返事が返ってきたことを、よく覚えている。

 

「転載と言う、そういう類の規約を詳しく知りませんが、

後藤さんがブログへ投稿される行為は誰かの利益になるような目的ではありません。

故に、さりげなく地味な扱いにして下されば幸いです」と。

 

2021年末、 ステージ4の癌宣告を受け、治療に専念していたが、

2022年末の便りに添えられた最期の句に、命見つめる春の空を詠ってくれていた。

 

 

 

  辞世の句《 病室の 窓に切りとる 春の空 》達雄

 

 

あれは、ちょうど20年前のニュージランド・オークランドユースホステルで同宿した

お互い壮年のバックパッカー同士であったことを想いだす。

ご家族のお手紙によると、青春時代の世界放浪を諦めきれず、子育てを終えて、

意気揚々と旅立った先で出会った最初のバックパッカーが、どうも私であった

ようである。

 

文通は、この時からお互いの放浪で培った純真なこころを運び始めたと言っていい。

そこには、夢見る壮年の尽きない冒険を愉しむ姿がいつもあった。

友にとって、バックパック(リュックサック)は玉手箱であったのかもしれない。

そこには、何が飛び出すかわからないワクワクさせる、まだ見ぬ世界や夢、

物語が詰っていたからである。

バックパックを背負い、見知らぬ土地で、見知らぬ心温まる友との出会いを楽しむ、

生きいきとした友の姿が蘇るのである。

友もまた、裸の自分を発見し、ロマンを求めての旅立ちに興奮した人であったと

云える。

 

今まさに、友は雲に乗って旅たち、夢の世界に放たれ、花園を楽しんでいる

ことであろう。

本当の幸せがなんであったかを、友は彼の地で気づかされているに違いないと

確信している。

それは、肉体からの解放であり、FREE/フリー/自由という魂の充足に友は

囲まれているからである。

 

ドイツ語を愛した友の<FREIHEIT/自由>にこそ、こころの解放という

バックパッカーとしての旅の哲学があったといえる。

そこには、友なりの人生哲学があり、思想があり、行動があり、家族愛があった。

友は、友なる友のこころを愛し、その友の置かれた人生風景の喜びや、

悲しみを、その後の文通によって共に味わえる人であった。

 

地平の遠く彼方を、ながい影を引きずりながら、夕日に染まる友の姿が見えるよう

である。

友にとって、消えゆく地平線は、おのれの幸せの境界線であったのではないだろうか。

彼の地での幸せに満ちた顔が、ニュージランドのオークランドユースホステル

語り合った壮年のバックパッカーに重なった。

ニュージランド・オークランドは、友の人生後期のバックパッカーとしての、

そして私の「ニュージランド縦断スケッチ旅」のスタート地点であった。

 

人との出会い、この世での一期一会では、こころに残る人はそう沢山いるもの

ではない。

こころに残り、なお心に残り続けた人の大切さを想うと、友はこころの宝である。

こころの宝は、死してのちも魂の宝として永遠に貯えられ、増え続けるもので

あると思う。

 

夢の詰まったリュック(バックパック)を背負って、世界中を旅した仲間である

バックパッカーの旅立ちは寂しいが、次の世での歓迎式で、再会できることを

楽しみにしている老いの今日この頃である。

二人してバックパッカーとして、天なる眩いばかりに輝く世界を駆け巡ってみたい

こころの友 矢野達雄君、安らかにお眠りください。

  

 

 

           <孤高のバックバッカ―を偲んで>

                 詠み人 後藤實久

 

          

       《羊蹄の 遠き山々 暮れゆきて 安らけき君 清き月かも》

        ―ようていの とおきやまやま くれゆきて やすらけききみ きよきつきかも―

 

     《得意げに 世界に散りし ペンパルと 交わせしロマン 熱く語りて》

        ―とくいげに せかいにちりし ぺんぱると かわせしろまん あつくかたりて―

 

      《わが道を 貫き終えし 君去りて 静かな闘志 秘めて還るや》

        ―わがみちを つらぬきおえし きみさりて しずかなとうし ひめてかえるや―

 

     《平和の世 バックパックの 影動き  ヒッチハイクや かざす親指》

        ―へいわのよ ばっくぱっくの かげうごき ひっちはいくや かざすおやゆび ―

 

        《葬送の ラッパ響きし 北海の 翔けし世界や 友夢追いし》

        ―そうそうの らっぱひびきし ほっかいの かけしせかいや ともゆめおいし―

 

     《鈍行の リュックサックの 上げ下ろし 煙に咽ぶ  蒸気機関車

      ―どんこうの りゅっくさっくの あげおろし けむりにむせぶ じょうききかんしゃ―

 

     《リュック背負い 男のロマン 翔けし夢 しるべの星を 仰ぎ進みし》

        ―りゅっくせおい おとこのろまん かけしゆめ しるべのほしを あおぎ進みし-

 

     《地下茎の 外陽求むる 如くにて 羽ばたけし世や 達雄の世界》

       ―ちかくきの そとびもとむる ごとくにて はばたけしよや たつおのせかいー

 

    《夢追いし バックパッカー 散り往きて 無常なる風 侘しかりけり》

      ―ゆめおいし ばっくぱっかー ちりゆきて むじょうなるかぜ わびしかりけり―

 

              

 

      

             同人誌『文芸北広島』2024.1 第40号 記念号

 

 

             ニュージランドをバックパック中の矢野達雄氏(右)と

            2004/4/1ニュージランド・オークランドYHラウンジにて

 

 

    矢野氏(左)に見送られ、サイクリングによる<ニュージランド縦断スケッチの旅 >へ出発

             ニュージランド・オークランドYH前で

 

 

 

 

                2024年1月10日 

           志賀の里 孤庵にて 残雪を眺めつつ

              友なる矢野達雄君を偲ぶ

 

 

                    

 

 

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