8-3 金沢 ⇒ 小松・那谷寺 ⇒ 福井 <奥の細道紀行 8>
■ 那谷寺に立ち寄る 2017年5月15日
こちらは、小松から那谷寺を経て山中温泉に向かうので、先に那谷寺へ立ち寄ることになった。
また、小松の案内でスペースの関係上、収め切れなかった<恐れながらわたしの一句―小松>
から書き始めたい。
◎恐れながらわたしも一句
㉘小松
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「むざんやな 甲の下の きりぎりす」
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多太神社・
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「蚯蚓ども あけてびっくり 石の下」
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(むざんやな かぶとのしたの きりぎりす)
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義仲菩提を弔う
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(みみずども あけてびっくり いしのした)
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「しをらしき 名や小松吹 萩薄 」
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日吉神社・建聖寺・
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「寺町の 路地裏抜ける 夏の風」
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(しおらしき なやこまつふく はぎすすき)
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菟橋神社
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(てらまちの ろじうらぬける なつのかぜ)
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「ぬれて行や 人もおかしき 雨の秋 」
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泥町・観世宅
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「侘び寂びも 笑いごころや 雨の萩 」
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(ぬれていくや ひともおかしき あめのあき)
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(わびさびも わらいこごろや あめのはぎ)
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「あかあかと 日はつれなくも 秋の風 」
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小松天満宮
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「麗しき 本折腰や 青柳」
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(あかあかと ひはつれなくも あきのかぜ)
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本折日吉神社
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(うるわしき ほんおりこしや あおやなぎ)
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「石山の 石より白し 秋の風」
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那谷寺
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「夏雲や 霊石白し 那谷かな」
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(いしやまの いしよりしろし あきのかぜ)
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(なつくもや れいせきしろし なたにかな)
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意味 : 斎藤別当実盛の遺品の兜、いま秋、コオロギが一匹、兜の下で鳴いている。このコオロギは
実盛の霊かもしれない
意味 : かわいい名前だ、小松とは。その浜辺の小松にいまは秋の風が吹いて萩やススキの穂波
をなびかせていることだ
意味 : 雨に濡れる人も風情のあるもの。秋雨に濡れながら眺めている人の姿も、その人の心もまた、
風情のあるものだ
芭蕉 「あかあかと 日はつれなくも 秋の風 」 (あかあかと ひはつれなくも あきのかぜ)
解説 :句は忍び寄る秋を「目にはさやかに見えねども」感じ取っている季節の変わり目を描く。背後に
「つれなくも」は、さりげなくとかそ知らぬさまの意
意味: 「那谷」の秋は、ここ白山の白い石よりもっと澄明な秋だ。風水から、秋の色彩は白と決まっている
恐れながらわたしも一句
意味 : この世の光りがこんなに明るいとは。 石の下の暗闇の世界に生きるミミズたち、突然石をどけられ
ての驚きがみえるではないか
實久 「寺町の 路地裏抜ける 夏の風」 (てらまちの ろじうらぬける なつのかぜ)
意味 : 建聖寺のある寺町の路地を吹き抜ける風に夏のこころを感じて爽やかである
實久 「侘び寂びも 笑いごころや 雨の萩 」 (わびさびも わらいこごろや あめのはぎ)
意味 : 萩の葉にころがる雨粒が風に揺れるたびに笑い顔に崩れるんだな、この霧雨に煙るお寺の
わびさびまでも艶やかだ
實久 「麗しき 本折腰や 青柳」 (うるわしき ほんおりこしや あおやなぎ)
意味 : 風になびく柳の折れ腰のなまめかしさよ、和むではないか
意味 : 真っ白な入道雲よりも白さを競う奇岩たち、ああそうか、ここは那谷の寺であったことよ
小松天満宮に戻って、車に自転車をのせ換え、那谷寺に向かう。
JR小松駅南側をぬけ、国道305号線を南西に下り、国道8号線との合流先の信号「分校交差点」を左折(県道43)に入ると、那谷寺に近づく。
15:00 約15km、20分ほどで目的地・那谷寺に着いた。
奇岩に樹木が茂る、まるで盆栽を手回しして眺めるようにその姿、形が変わる景観である。
岩窟にある千手観音が祀られている大悲閣本殿の素晴らしさに目を見張った。必見である。
紅葉の季節が特に美しいらしい。
山中の温泉に行ほど、白根が嶽跡にみなしてあゆむ。左の山際に観音堂あり。花山の法皇、三十三所の順礼とげさせ給ひて後、大慈大悲の像を安置し給ひて、那谷と名付給ふと也。那智、谷汲の二字をわかち侍しとぞ。奇石さまざまに、古松植ならべて、萱ぶきの小堂、岩の上に造りかけて、殊勝の土地也。
石山の 石より白し 秋の風
温泉に浴す。其功有明に次と云。
山中や 菊は手折らじ 湯のにほひ
あるじとする物は、久米之助とて、いまだ小童也。かれが父俳諧を好み、洛の貞室、若輩のむかし、爰に来りし比、風雅に辱しめられて、洛に帰て貞徳の門人となって世にしらる。功名の後、此一村判詞の料を請ずと云。今更むかし語とはなりぬ。
<現代語訳>
山中温泉に行く道々は、白山を後ろに見ながら行く。左の山際に観音堂がある。花山法皇は西国三十三ヶ所めぐりを完遂されて後、千手観音菩薩像をここに安置され、那谷と名付けられたという。那智と谷汲の二字を分けて組み合わせたとのことだ。
さまざまな奇石があり、松の古木が並べ植えられており、岩の上にかやぶきの小堂が作ってあるなど、まことに霊験の豊かな有り難い地である。
石山の石より白し秋の風
山中や菊はたおらぬ湯の匂
この宿の主人は、久米之助といって未だ少年だ。久米之助の父は俳諧好きの人だった。京の安原貞室が若かりし頃、ここに来て、俳諧のことで、この父から無知を指摘されたことがあったという。都に戻った彼は、発奮し、松永貞徳の門に入って学び、後に名人貞室として知られるようになった。名をなして後、貞室はこの村の人々からは判詞の点料を取らなかったという。そんな話もいまは昔語りである。
那谷寺山門
那谷寺に建つ芭蕉句碑「石より白し」 那谷寺の岩窟奇岩庭園
那谷寺・大悲閣本殿
㉘ 山中温泉を自転車で巡る
につづく