2019『星の巡礼 鯖街道踏破』
―鯖街道 針畑越えルート縦走日記―
<同志社ローバースカウト仲間の追悼縦走>
■<針畑峠越えー鯖街道>を歩く
鯖街道は、日本海側の若狭の小浜や高浜より都があった京都へ上るいくつかの道をいう。
特に、若狭街道は険しい山や峠が少なく、老若男女が歩きやすい街道であり、宿も整っていた。現在でも、国道27・33・367が走り、若狭と京都を結ぶ幹線道路の一つとして利用されている。
今回は、鯖街道のうち、険しい峠をいくつか越えるが、距離や時間にして最短コースである「針畑峠越え鯖街道」を縦走してみた。
「針畑峠越え鯖街道」は、小浜をスタートし、丹後街道との分岐である遠敷(おにゅう)の集落から、直線的に真南に京都へ向かって下る。
<鯖街道イラストマップ>の緑のルートが、今回歩いた「針畑峠越え鯖街道・針畑峠越えルート」である。
<針畑峠越え鯖街道>というロングトレイル縦走コースは、距離にして76㎞、老人の歩みで3泊4日の踏破であった。
まず、行程表から<針畑峠越え鯖街道ルート>を紹介しておきたい。
<SABAKAIDO 日本遺産> 緑色のルートが<鯖街道ー針畑峠越え>
■<鯖街道・針畑峠越えルート断面図―高低表>
<針畑峠越え鯖街道ルート>は、小浜市いづみ町商店街を出発し、北国街道を別れ、針畑越え峠を経て、ネゴロ坂峠につづく八丁平を歩き、花脊峠から、鞍馬街道を南下し、出町柳近くの升形商店街に至るルート76kmの行程である。
この<鯖街道・針畑越え峠ルート>は、標高800m級の三峠を越えなければならないが、距離的にはいくつかある鯖街道のうち陸路最短(76km)のルートである。
このブログでは、三峠の登山道である鯖街道歩きを中心に案内している。
登山道以外の国道・県道と並走する鯖街道は<鯖街道ガイドマップ>(若狭おばま観光協会発行)を参考にさせていただいた。
① 針畑越え峠(根来坂峠・標高833m) ― 高島トレイルとの交差地点
② オグロ坂峠(標高869m) ― 坊村への分岐地点
③ 花脊峠(標高804m) ― 国道477<広河原―百井>との交差地点
<鯖街道ー針畑峠越え>ルート縦走断面図>
<鯖街道―針畑峠越えルート行程表>
<行程表の読み方>
上記行程表は、ボーイスカウトの野帳記入方式を基本に作成した。
<スタート地点>をベースとして時系列に、目的地に向かって進みながら記入している。
ここ針畑峠越え鯖街道では、北端の福井若狭・小浜を南に縦走し、南端の京都・出町柳近くにある<桝形商店街>に向かって記帳した。
行程表では、ボトム(底辺)からアップ(上辺)に向かって記入しているので、ここでは北から南に向かって逆行することになる。
スカウト式野帳の特徴は、進行方向にむかって歩きながら記入することにより、左右の対象物や目標物を正確に明記することができ、後日の追跡が容易である。
今回のように南方向への縦走を野帳に記入する場合、東西が逆になるので注意が必要である。
■<鯖街道・針畑越峠ルート里程表>
往時の距離は、1里=約4㎞で表しており、《京は遠ても十八里》と言われていた。
現在でいう、小浜の泉商店街より、京の升形商店街までの鯖街道は、当時、18里即ち約72㎞であったことがわかる。
今回の全行程76kmの内、約57㎞が国道や県道の舗装道路であり、そのほとんどを本数は少ないが路線バスが走る。
道路沿いには、宿や休憩所、公衆便所もあり、老体のエスケープ・ルートとしては安心安全のロングトレイル(縦走路)でもある.
<鯖街道―針畑峠越え―ルート>での歩きスタイル
縦走スタイルは、登山行と同じくテント(ツエルト)をかつぎ、体力に余力のあるうちに設営して、夜を過ごした。
午前4時30分起床、パッキング、朝食を済ませ、まだ暗いうちに露営地を出発、午後3時ごろには目的地に到着し、設営後、夕食をすませ寝袋に潜りこみ、十分な睡眠をとって疲れをとることを心掛けた。
今回の装備についても述べておきたい。
登山道は全行程(76㎞)の1/4(19㎞)に過ぎず、あと57㎞は舗装道を歩くことになるのでハイキングシューズ(軽登山靴)はじめ、軽装備に徹した。
食料品は、通常登山に比べ温食に配慮し、ガスバーナーやコッフェルを持参した。
また非常食等もコンビニや商店・飲食店などルート上での調達が可能なので最小限にとどめることができた。
重量的に問題となる飲料水も、登山道での湧水・流水・谷水等の確保も容易であり、登山道以外の県道・国道でも水道栓・川水に恵まれた。行動用ボトル0.7Lと緊急予備用タンク1Lの重量1.7kgの水を補充しながら踏破することができた。
全行程を、総重量11.8Kgを背負っての縦走となったが、高齢を考慮しての限度ではなかったかと思う。
もちろん、日毎に食料は消費されていくので、最終日には7Kg近くに落ち着いた。
携行リストを参考までに書き記しておきたい。
これらの携行品の入ったリュックを2日目の針畑峠越えで谷に落下させ紛失することになる。
一旦帰宅し、再パック後、引き続き鯖街道を縦走することになった。
携行した主要食料と水
■<生活の道>としての鯖街道
今回もまた、わたしの中での<星の巡礼路>の一つである<鯖街道>を歩けることに感謝するものである。
宇宙の中の小さな一つの命が、大きな夢と希望をもって、与えられた使命を顧みる時間と道を歩んでいることの喜びをかみしめられるからである。
いまここ鯖街道にあるすべての命と共鳴しあえるおのれの命が存在することの偶然性に大きな驚きと、いや我を中心にして動く時の流れにあって、ここ鯖街道という一筋の道を歩んでいること自体に驚嘆するのである。
道中、出会った八丁平に群生するトリカブトの花との歓喜の交歓を忘れることができない。
当時の鯖を運んだ行商飛脚は、背追っ子に漢方薬の素となるトリカブトを摘み取って納めたことであろうか。
これまた生活の糧・知恵であったかもしれないと想像するだけで楽しくなる。
トリカブトの群生になごむ ―フナ峠付近にてー
針畑峠越えの<鯖街道>もまた、多くの庶民の生活を支えた<生活の道>でもあった。
その生活の糧を支えた、一本の道にも汗の臭いがただよい、一服したであろう石が私にもお休みあれと呼びかけてくる。
当時は、一昼夜で新鮮な鯖を18里、約72㎞離れた京の都に届けるために夜も眠らず踏破し続け、星空を眺めてこの世の美しさに感嘆したことであろう。
いまこの道を4日もかけて、時代を逆行するように一歩一歩を踏みしめ、かっての生活の道を踏みしめているのである。
ブナの木陰で木漏れ日を浴びながら、背中に回した風呂敷から女房の作ってくれたオニギリを頬はっている姿や、竹筒に入れたまだぬくもりが残っている番茶をすすっている姿が見えてくるようである。
鵜瀬のせせらぎを愛でながら、ガスバーナーでお湯を沸かしインスタントラーメンを口に運び、湧水を口にするとき、鯖街道の風景に飛び込んでいる現実に、当時の行商飛脚や旅人の姿を己に重ねるのである。
一昼夜の行商飛脚便であろうと、命を懸けての難儀な道であったことは、道中にたたずむ旅の安全・安寧を祈る地蔵菩薩のお顔が物語っているようである。
街道を往来する行商飛脚や旅人はもちろん、現代のハイカーもまた、今日一日の旅の安全を願って地蔵尊に手を合わせ、拝礼するのである。
道中の安全を見続けてくれた地蔵尊を紹介しておきたい。
■亡き友との同行三人
今回は、亡きローバースカウトの二人の友・桂茂樹君と田中祥介君との写真を携え、日本海若狭・小浜より陸路、針畑の峠を越え<鯖街道>を都のあった京まで歩くのである。
この鯖街道縦走中(出発した翌日9月1日)に、桂茂樹君を偲ぶ会がもたれ、多くの同志仲間が京都平安ホテルに集まり、孤高を愛した同君を賑やかに見送ったという報を帰宅してからいただいた。
出発前に偲ぶ会幹事に届けた短歌を載せて、同君への哀悼の言葉としたい。
孤独を愛し、孤独に生きた桂茂樹君を偲んで鯖街道縦走を共にした
鯖街道縦走に写真同行の亡き桂茂樹君
<2011/5 中山道踏破隊到着式で>
《 旅路終え 遥けき天へ 往く君の
残せし陰に かおり遺すや 》
―たびじおえ はるけきてんへ ゆくきみの
のこせしがげに かおりのこすや―
《 永遠の スカウト誓い なりし君
溢れし命 喜び満つらん 》
―とこしえの すかうとちかい なりしきみ
あふれしいのち よろこびみつらん―
また7年前、同志社ローバースカウト創立50年を記念して共に歩いた<中山道てくてくラリー>の相棒・喜多さんこと田中祥介君の一周忌がやってくる。今回も彼の写真を携えて一緒に歩かせてもらった。
同志社ローバー田中祥介君一周忌を迎えて
豪放磊落にして繊細緻密な亡き友を偲びながら鯖街道縦走に挑んだ
鯖街道縦走に写真同行の亡き田中祥介君
<2011/5 中山道踏破隊到着式で>
《 君背負い 越えし峠や 鯖街道
見果てぬ君の 夢を求めて 》
―きみせおい こえしとうげや さばかいど
みはてぬきみの ゆめをもとめてー
《 ふるさとの 田原に眠る 君なれど
日々忙しや 天にありても 》
-ふるさとの たはらにねむる きみなれど
ひびいそがしや てんにありともー
鯖街道起点・小浜いづみ商店街出発にあたって、両君と記念撮影
鯖街道起点である小浜・泉商店街をスタートし、北国街道を進むと、JR小浜線の踏切を渡る手前に蓮如上人建立の立光寺がある。
山門横に掲げられている偈に次のように書かれていた。
「亡き人のため」という思いは、
「私がいかに生きるか」という問いに轉換される
この鯖街道歩きのテーマである亡き友二人との同行三人を考えさせられる偈である。
蓮如上人建立の立光寺 <山門の偈>に学習する
次回は、<小浜・いづみ商店街 ➡ 根来坂登山口>ルートを案内したい。
につづく