―短歌でたどる遍路八十八ケ寺―
The 88 Temples of the Pilgrimage through Tanka
―The world of Heart Sutra―
巡礼者 後藤實久
ここ数年続けた付添い遍路で詠った短歌に、ひとり歩き同行二人でいただいた納経帳にある般若心経の世界を加えて、<短歌でたどる遍路八十八ケ寺>としてまとめてみました。
卍01 霊山寺 りょうぜんじ <発願の寺>
《発願の こころ忘れじ 霊山寺 潜る仁王門 力満ちきし》
―ほつがんの こころわすれじ りょうぜんじ くぐるにおうもん ちからみちきし―
卍88 大窪寺 おおくぼじ <結願の寺>
《結願の 同行二人 大窪寺 心経満ちし 般若の世界》
―けつがんの どうこうふたり おおくぼじ しんぎょうみちし はんにゃのせかい―
I have added the world of the Heart Sutra in the book of stamps that I received from two people who accompanied me on my own walk, to the tanka poems I wrote on the way I accompanied on the pilgrimage for the past few years.
四国霊場八十八ヶ所 般若心経の世界
―The world of Heart Sutra―
Tanka・Sutra copying w/Sketch by Sanehisa Goto
短歌 写経 スケッチ 後藤實久
卍01 霊山寺 りょうぜんじ
《発願の こころ忘れじ 霊山寺 潜る仁王門 力満ちきし》 實久
―ほつがんの こころわすれじ りょうぜんじ くぐるにおうもん ちからみちきし―
卍02 極楽寺 ごくらくじ
《願い込め 浄土求めし 極楽寺 般若の世界 心経唱えし》 實久
―ねがいこめ じょうどもとめし ごくらくじ はんにゃのせかい しんぎょうとなえし―
卍03 金泉寺 こんせんじ
《お大師の 黄金の泉 慈悲もらい 溢れて尽きぬ 発心固め》 實久
―おだいしの おうごんのいずみ じひもらい あふれてつきぬ ほっしんがため―
卍04 大日寺 だいにちじ
《山裾に 如来待ちにし 大日寺 朱門鮮やか われ迎えおり》 實久
―やますそに にょらいまちにし だいにちじ しゅもんあざやか われむかえおり―
卍05 地蔵寺 じぞうじ
《われを待つ 羅漢さん坐す 地蔵寺や 耳を澄ませば 声明涼し》 實久
―われをまつ らかんさんざす じぞうじや みみをすませば しょうみょうすずし―
卍06 安楽寺 あんらくじ
《疲れ脚 宿坊の湯に 癒されて 安楽寺の さかさ松かな》 實久
―つかれあし しゅくぼうのゆに いやされて あんらくてらの さかさまつかな―
「さかさ松」とは、祈願中の大師に何者かが引いた弓が、外れて松の枝が折れた。
大師は枝を逆さに植えて、この松が栄えるなら、この地を踏むことによって災厄を逃れる
と言われた。
卍07 十楽寺 じゅうらくじ
《祈り込め 求めし遍路 十楽寺 阿弥陀如来に 手を合わせしや》 實久
―いにりこめ もとめしへんろ じゅうらくじ あみだにょらいに てをあわせしや―
卍08 熊谷寺 くまたにじ
《祈り満つ 響きし詠歌 熊谷寺 金剛杖に 鈴当たりしや》 實久
―いのりみつ ひびきしえいか くまたにじ こんごうづえに すずあたりしや―
卍09 法輪寺 ほうりんじ
《仏さま 涅槃の姿 法輪寺 ぼちぼち行けと 励まし受けし》 實久
―ほとけさま ねはんのすがた ほうりんじ ぼちぼちいけと はげましうけし―
卍10 切幡寺 きりはたじ
《女人寺 階段あえぐ 切幡寺 金剛杖に おのれ託せし》 實久
―にょにんでら かいだんあえぐ きりはたじ こんごうづえに おのれたくせし―
卍11 藤井寺 ふじいでら
《遍路待つ 厄除け薬師 藤井寺 大草履はく 仁王様おり》 實久
―へんろ やくよけやくし ふじいでら おおぞうりはく におうさまおり―
卍12 焼山寺 しょうざんじ
《山深き 遍路ころがし 焼山寺 励まし受けし 同行二人》 實久
―やまふかき へんろころがし しょうざんじ はげましうけし どうこうふたり―
「遍路ころがし」とは、お遍路さんが転ぶほどの山岳の難所のことを言う
卍13 大日寺 だいにちじ
《阿波の国 大師招きし 大日寺 幸せ仏 びんずる様や》 實久
―あわのくに だいしまねきし だいにちじ しあわせほとけ びんずるさまや―
「びんずる様」とは、お釈迦様の弟子の十六羅漢(らかん)の中で神通力が強かった方で、病気を治す力を持つと言われ、通常、本堂入口より少し離れた外陣で、お遍路さんの健康を案じて、迎えておられる。
卍14 常楽寺 じょうらくじ
《奇怪なる 流水岩や 常楽寺 浮かぶ本堂 風流なりし》 實久
―きかいなる りゅうすいがんや じょうらくじ うかぶほんどう ふうりゅうなりし―
卍15 国分寺 こくぶんじ
《田畑なか 国分寺へと 遍路鈴 不浄の神や 金剛祀りし》 實久
―たはたなか こくぶんじへと へんろすず ふじょうのかみや こんごうまつりし―
卍16 観音寺 かんのんじ
《忘れおる 心潜みし こころ奥 覗きて見えし 観音の寺》 實久
―わすれおる こころしずみし こころおく のぞきてみえし かんのんのてら―
卍17 井戸寺 いどじ
《遍路身の おのれ映せし 井戸の寺 成就願いて 覗き見るなり》 實久
―へんろみの おのれうつせし いどのてら じょうじゅねがいて のぞきみるなり―
卍18 恩山寺 おんざんじ
《父母の愛 しみじみ想う 恩山寺 石段踏みつ 感謝しおりて》 實久
―ふぼのあい しみじみおもう おんざんじ いしだんふみつ かんしゃしおりて―
卍19 立江寺 たつえじ
《お京なる 髪を遺せし 立江寺や 不義なりし者 われに頼れと》 實久
―おきょうなる かみをのこせし たつえじや ふぎなりしもの われにたよれと―
卍20 鶴林寺 かくりんじ
《遍路泣く 阿波の難所 鶴林寺 深山幽谷 み仏満ちし》 實久
―へんろなく あわのなんしょう かくりんじ しんざんれいこく みほとけみちし―
卍21 太龍寺 たいりゅうじ
《仰ぎ見る 霊山翔けし 太龍寺 天空遍路 同行二人》 實久
―あおぎみる れいざんかけし たいりゅうじ てんくうへんろ どうこうふたり―
卍22 平等寺 びょうどじ
《厄落とし 障害消えし 平等寺 木車捨てて 遍路続けし》 實久
―やくおとし しょうがいきえし びょうどじ きぐるますてて へんろつづけし―
卍23 薬王寺 やくおうじ
《厄坂に 張り付く一円 薬王寺 日和佐の岬 厄落としかな》 實久
―やくさかに はりつくいちえん やくおうじ ひわさのみさき やくおとしかな―
卍24 最御崎寺 ほっみさきじ
《洞窟の 暗き迷いの 最御崎寺 明星眺むる 室戸の岬》 實久
―どうくつの くらきまよいの ほっみさきじ みょうじょながむる むろとのみさき―
卍25 津照寺 しんしょうじ
《眺むるに 舟の出入りや 津照寺 み光まぶし 土佐の海かな》 實久
―ながむるに ふねのでいりや しんしょうじ みひかりまぶし とさのうみかな―
卍26 金剛頂寺 こんごうちょうじ
《修行せし 金剛頂寺 お大師さん 響く読経 溶けし海原》 實久
―しゅぎょうせし こんごうちょうじ おだいしさん ひびくどっきょう とけしうなばら―
卍27 神峯寺 こうのみねじ
《み仏の 恵み苔むす 神峰 遍路泣かせる 土佐の難所や》 實久
―みほとけの めぐみこけむす こうのみね へんろなかせる とさのなんしょや―
卍28 大日寺 だいにちじ
《砂利踏みて マントラ唱う 大日寺 爪彫り薬師 招き治せし》 實久
―じゃりふみて まんとらとなう だいにちじ つめぼりやくし まねきなおせし―
「爪彫り薬師」(薬師瑠璃光如来)は、目・耳・鼻・口などの病に霊験あらたかな仏さん。
卍29 国分寺 こくぶんじ
《土佐日記 歩き訪ねし 国分寺 紀貫之も 歩き遍路や》 實久
―とさにっき あるきたずねし こくぶんじ きのつらゆきも あるきへんろや―
卍30 善楽寺 ぜんらくじ
―あんらくと ふたつのふだしょ ぜんらくじ しゅうさんありし しんぶつぶんり ―
卍31 竹林寺 ちくりんじ
《五台山 見上げし景色 竹林寺 よさこい節や 木霊しおりし》 實久
―ごだいざん みあげしけしき ちくりんじ よさこいぶしや こだましおりし―
卍32 禅師峰寺 ぜんじぶじ
《土佐ノ海 法船見ゆる 禅師峰寺 八葉山背に 大師祈りし》 實久
―とさのうみ のりぶねみゆる ぜんじぶじ はちようざんせに だいしいのりし―
卍33 雪蹊寺 せっけいじ
《幽霊の 御詠歌響く 雪渓寺 浦戸の湊 渡し遍路や》 實久
―ゆうれいの ごえいかひびく せっけいじ うらどのみなと わたしへんろや―
卍34 種間寺 たねまじ
《大師蒔く 五穀の種の 種間寺や 如来の大悲 咲きて眩しき》 實久
―だいしまく ごこくのたねの たねまじや にょらいのだいひ さきてまぶしき―
卍35 清滝寺 きよたきじ
《疲れおる 遍路迎えし 清滝寺 薬師如来の 励まし尽きじ》 實久
―つかれおる へんろむかえし きよたきじ やくしにょらいの はげましつきじ―
卍36 青龍寺 せいりゅうじ
《海の神 大師助けし 青龍寺 西安仰ぎ 光明真言唱う》 實久
―うみのかみ だいしたすけし せいりゅうじ せいあんあおぎ まんとらとなう―
卍37 岩本寺 いわもとじ
《願いごと 心映せし 岩本寺 成就嬉しや 天井絵あり》 實久
―ねがいごと こころうつせし いわもとじ じょうじゅうれしや てんじょうえあり―
卍38 金剛福寺 こんごうふくじ
《足摺の 金剛福寺 潮吹かれ 祈りの聖地 補陀落の地や》 實久
―あしずりの こんごうふくじ しおふかれ いのれのせいち ふだらくのちや―
「補陀落」とは、観音菩薩の降臨する霊場であり、観音菩薩の降り立ったとされる伝説上の山。
卍39 延光寺 えんこうじ
《亀背負う 修行の道場 延光寺 清き井戸水 諸病癒せし》 實久
―かめせおう しゅぎょうのどうじょう えんこうじ きよきいどみず しょびょういやせし―
卍40 観自在寺 かんじざいじ
《菩提なる 観自在寺や 万病の 病根絶ちたし 祈りも熱き》 實久
―ぼだいなる かんじざいじや まんびょうの びょうこんたちたし いのりもあつき―
卍41 龍光寺 りゅうこうじ
《鳥居門 驚きくぐる 龍光寺 心和むや ミニ大師堂》 實久
―とりいもん おどろきくぐる りゅうこうじ こころなごむや みにたいしどう―
卍42 仏木寺 ぶつもくじ
―うしうまも くさきもほとけ ぶつもくじ だいにちにょらい うりふうじかな―
「うり封じ」とは、6月の丑の日、人間や牛馬を身代わりの瓜(うり)に封じ込め、川に流す供養をいう。
卍43 明石寺 めいせきじ
《遍路笠 十夜ケ橋の 杖つかず 大師も野宿 明石寺かな》 實久
―へんろかさ じゅうやけばしの つえつかず たいしものじゅく めいせきじかな―
卍44 大宝寺 だいほうじ
《木洩れ日の 霊場暗き 大宝寺 草履納めし 遍路半ばや》 實久
―こもれびの れいじょうくらき だいほうじ ぞうりおさめし へんろなかばや―
卍45 岩屋寺 いわやじ
《岩屋寺の 岸壁の背や 極楽の 長き石段 大師に引かれ》 實久
―いわやじの がんぺきのせや ごくらくの ながきいしだん たいしにひかれ―
卍46 浄瑠璃寺 じょうるりじ
《極楽の 苦楽重なる 浄瑠璃寺 寛ぎのなか 遍路眺むる》 實久
―ごくらくの くらくかさなる じょうるりじ くつろぎのなか へんろながむる―
卍47 八坂寺 やさかじ
《修験なる 道場なりし 八坂寺は 遍路起こせし 元祖の里や》 實久
―しゅげんなる どうじょうなりし やさかじは へんろおこせし がんそのさとや―
遍路を最初にはじめた衛門三郎は、大師を慕って八十八ケ所の札所を20数回廻ったと言われる。
この地で衛門三郎は誕生し、この地はまた「遍路元祖の地」と呼ばれている。
卍48 西林寺 さいりんじ
《阿弥陀仏 尋ねて見たし 西林寺 遍路迎えし 太鼓橋かな》 實久
―あみだぶつ たずねてみたし さいりんじ へんろむかえし たいこばしかな―
卍49 浄土寺 じょうどじ
《あるがまま 我身捨てずや 浄土寺の 三昧境地 踊り念仏》 實久
―あるがまま わがみすてずや じょうどじの ざんまいきょうち おどりねんぶつ―
卍50 繁多寺 はんたじ
《遊行の 一遍おりし 繁多寺や 瀬戸内眺め 念仏唱う》 實久
―ゆうこうの いっぺんおりし はんたじや せとうちながめ ねんぶつとなう―
卍51 石手寺 いしてじ
《寺参り 十楽得しや 石手寺の 阿吽の仁王 遍路迎えし》 實久
―てらまいり じゅうらくえしや いしてじの あうんのにおう へんろむかえし―
卍52 太山寺 たいさんじ
《息切らし 坂を上りし 太山寺 霊山深かき 聖地なるかな》 實久
―いききらし さかをのぼりし たいさんじ しんざんくらき せいちなるかな―
卍53 円明寺 えんみょうじ
《マリア様 遍路迎えし 円明寺 銅なる最古 納経札や》 實久
―まりあさま へんろむかえし えんみょうじ どうなるさいこ のうきょうふだや―
卍54 延命寺 えんめいじ
《瀬戸内の 眺め美し 延命寺 もてなし金茶 紅葉映せし》 實久
―せとうちの ながめうつくし えんめいじ もてなしきんちゃ もみじうつせし―
卍55 南光坊 なんこうぼう
《鳩遊ぶ 街に微睡む 南光坊 金剛杖に み光眩し》 實久
―はとあそぶ まちにまどろむ なんこうぼう こんごうづえに みひかりまぶし―
卍56 泰山寺 たいざんじ
《長閑なる 山麓背にし 泰山寺 不忘松なる 大師手植えや》 實久
―のどかなる さんろくせにし たいざんじ ふぼうまつなる たいしてうえや―
卍57 栄福寺 えいふくじ
《蒼社川 越えし遍路や 栄福寺 お縋り待ちし お願い地蔵》 實久
―そうじゃかわ こえしへんろや えいふくじ おすがりまちし おねがいじぞう ―
卍58 仙遊寺 せんゆうじ
《仙人の 遊びし古刹 仙遊寺 大師と過ごす 伝説の地や》 實久
―せんにんの あそびしこさつ せんゆうじ たいしとすごす だんせつのちや―
卍59 国分寺 こくぶんじ
《古刹なる 郷を治めし 国分寺 今治の浜 波静かなり》 實久
―こさつなる くにをおさめし こくぶんじ いまばりのはま なみしずかなり―
卍60 横峰寺 よこみねじ
《石鎚に 隠れおわすや 横峰寺 神秘湛うる 霊場なりし》 實久
―いしづちの かくれおわすや よこみねじ しんぴたたうる れいじょうなりし―
卍61 香園寺 こうおんじ
《白滝の 女人成仏 香園寺 札所見まがう カセドラルかな》 實久
―しらたきの にょにんじょうぶつ こうおんじ ふだしょみまがう だいせいどうかな―
札所は、光り輝く大聖堂(Cathedral/カセドラル)と見まがう本堂の中にある。
卍62 宝寿寺 ほうじゅじ
《よだれ掛け 子安祀りし 宝寿寺 渡る本堂 板の橋かな》 實久
―よだれかけ こやすまもりし ほうじゅじ わたるほんどう いたのはしかな―
参拝しやすいように板橋がある本堂。
卍63 吉祥寺 きっしょうじ
《毘沙門天 祀る霊場 吉祥寺 気付き驚く マリア観音》 實久
―びしゃもんてん まつるれいじょう きっしょうじ きづきおどろく まりあかんおん―
卍64 前神寺 まえがみじ
《石鎚の 法灯守る 前神寺 大師学びし 求聞持法や》 實久
―いしづちの ほうとうまもる まえがみじ たいしまなびし ぐもんじほうや―
卍65 三角寺 さんかくじ
《涅槃へと 伊予路別るる 三角寺 心円やか 念ぜよ慈悲を》 實久
―ねはんへと いよじわかるる さんかくじ こころまろやか ねんぜよじひを―
卍66 雲辺寺 うんぺんじ
《雲上の 幽玄なるや 雲辺寺 霊気満ちたる わが心うち》 實久
―うんじょうの ゆうげんなるや うんぺんじ れいきみちたる わがこころうち―
お遍路さんは、ロープウエーで雲上の世界、雲辺寺へ導かれる。
卍67 大興寺 だいこうじ
《大峰を 降りてや長閑 大興寺 最澄おわす 大師二人や》 實久
―おおみねを おりてやのどか だいこうじ さいちょうおわす たいしふたりや―
卍68 神恵院 じんねいん
《遍路笠 神恵観音 両にらみ 讃岐に並ぶ 不思議思いし》 實久
―へんろうじ じんねかんのん りょうにらみ さぬきにならぶ ふしぎおもいし―
卍69 観音寺 かんのんじ
《雅やか 朱なる本堂 観音寺 素なる瓦に 安堵残せし》 實久
―みやびやか しゅなるほんどう かんのんじ そなるかわらに あんどのこせし―
卍70 本山寺 もとやまじ
《一夜寺と 聞きて仰ぎし 本山寺 鎮座せらるる 馬頭観音 》 實久
―いちやじと ききてあおぎし もとやまじ ちんざせらるる ばとうかんのん―
卍71 弥谷寺 いやだにじ
《石段の 上り運呼びし 弥谷寺 死者を招きし 霊山深し》 實久
―いしだんの のぼりうんよびし いやだにじ ししゃをまねきし れいざんふかし―
卍72 曼荼羅寺 まんだらじ
《水落ちて 風吹き抜けし 曼荼羅寺 遍路豊けき 旅路祈るや》 實久
―みずおちて かぜふきぬけし まんだらじ へんろゆたけき たびじいのるや―
卍73 出釈迦寺 しゅつしゃかじ
《大師さま 遍路祈るや 出釈迦寺 光る唐破風 伊予路見つめし》 實久
―たいしさま へんろいにるや しゅつしゃかじ ひかるからはふ いよじみつめし―
卍74 甲山寺 こうやまじ
《燻ぶりし 線香かぶる 甲山寺 蠟燭揺らぐ わが心うち》 實久
―くすぶりし せんこうかぶる こうやまじ ろうそくゆらぐ わがこころうち―
卍75 善通寺 ぜんつうじ
《曲げ瓦 唐におりしか 善通寺 大師生まるる 御影おわすや》 實久
―まげかわら とうにおりしか ぜんつうじ たいしうまるる みかげおわすや―
卍76 金倉寺 こんそうじ
《石榴なる 山門待ちし 金倉寺 乃木も枕す 妻返えし松》 實久
―ざくろなる さんもんまちし こんそうじ のぎもまくらす つまがえしまつ―
「妻返えし松」とは、善通寺第11師団長であった乃木将軍は、金倉寺の客殿に居住したおり、
訪ね来た妻静子夫人を拒否した。戸惑いの婦人がしばらくたたずんだと言われる松が、
天を突いて今なおその姿を見せている。
卍77 道隆寺 どうりゅうじ
《霊験の 目なおし薬師 道隆寺 観音像の 迎え嬉しや》 實久
―れいけんの めなおしやくし どうりゅうじ かんのんぞうの むかえうれしや―
卍78 郷照寺 ごうしょうじ
《万体の 観音並びし 郷照寺 あの世続きし 瀬戸の大橋》 實久
―まんたいの かんのんならびし こうしょうじ せとのおおはし あのよへのみち―
《紅鳥居 われ迎しや 天皇寺 長閑な日照り 鳶舞いてや》 實久
―あかとりい われむかえしや てんのうじ のどかなひでり とんびまいてや―
卍80 国分寺 こくぶんじ
《天平の 鐘の不思議や 国分寺 長き参道 遍路続きし》 實久
―てんぺいの かねのふしぎや こくぶんじ ながきへんろう へんろつづきしー
卍81 白峯寺 しろみねじ
《杉木立 霊気漂う 白峯寺 悲しみ詠う 仏法僧や》 實久
―すぎこたち れいきただよう しろみねじ かなしみうたう ぶっぽうそうや―
卍82 根香寺 ねころじ
《深山の 苦しき遍路 根香寺や 目を閉じ見れば 道先見えし》 實久
―しんざんの くるしきへんろ ねころじや めをとじみれば みちさきみえし―
卍83 一宮寺 いちのみやじ
《地獄穴 釜音聴こゆ 一宮寺 ネギトロ喰うも 耳離れずや》 實久
―じごくあな かまおときこゆ いちのみや ねぎとろくうも みみはなれずや―
卍84 屋島寺 やしまじ
《源平の 戦見つめし 屋島寺の 大師伝説 不喰梨や》 實久
―げんぺいの いくさみつめし やしまじの たいしでんせつ くわずのなしや―
「不喰梨」(くわずのなし): 持主がやってきて、梨の実を取っていたところへお大師が通りかかり、「その梨を一つ頂けないか」と所望された。 その人は、「美味しそうに見えますが、苦くて渋くて食べられるものではありません」と嘘を言って差し上げなかった。
その後、多くの実を結ぶが、無味乾燥で木を噛むような梨になってしまい、持主は自分の邪険で貪欲な心を恥じて、善心に立ち返ったという。 それ以降、この梨の樹を不喰梨(くわずのなし)と言うようになり、人々は戒めとしたという。
卍85 八栗寺 やくりじ
《霊験を 求めケーブル 八栗寺や 三剣山の 光背眩し》 實久
―れいけんを もとめけーぶる やくりじや さんけんざんの こうはいまぶし―
卍86 志度寺 しどじ
《自然なる 野草背伸びし 志度寺にて 読経流る 風流の寺》 實久
―じねんなる やそうせのびし しどじにて どっきょうながる ふうりゅうのてら―
卍87 長尾寺 ながおでら
《あしびきの 山鳩啼きし 長尾寺 結願まぢか 気引締めよと》 實久
―あしびきの やまばとなきし ながおでら けつがんまぢか きひきしめよと―
「あしびきの」とは、 足を引いてあえぎつつ登っている意味。
卍88 大窪寺 おおくぼじ
《結願の 同行二人 大窪寺 心経満ちし 般若の世界》 實久
―けつがんの どうこうふたり おおくぼじ しんぎょうみちし はんにゃのせかい―
《遍路笠 同行二人 奥の院 般若心経 唱え謝せしや》 實久
―へんろかさ どうこうふたり おくのいん はんにゃしんぎょう となえしゃせしや―
四国霊場八十八ヶ所 - 般若心経の世界
―The world of Heart Sutra―
Tanka・Sutra copying w/Sketch by Sanehisa Goto
短歌 写経 スケッチ 後藤實久
感謝 合掌
完
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