: 徒歩巡礼》 8月23日
78滝尻王子~85継桜王子>を利用させてもらった。
わたしはシニアである。所要時間は休憩・立寄り・記帳・写真撮影をふくめたシニア時間を使っている。 標準時間より所要シニア時間は約1.5倍かかっている。
▲印は、行程中の通過地点の標高(m)をしめしている。前後の標高▲を見ることにより全体の上り下りを知ることができる。
◎78 滝尻王子(たきじりおうじ) < 78滝尻王子▲82m ⇒ 79不寝王子▲198m >
D:距離約 500m H:所要シニア時間 30分
駐車場 /トイレ/水汲み場 /飲食 /商店/番号道標0(中辺路起点) /滝尻バス停
この日、台風の接近で朝から雨が降っていた。
滝尻の駐車場に車を止め、雨の中を歩きだした。スペイン青年カルロスが雨具姿で先を急いでいた。 もう一人日本人男性が雨のなか出発すべきか判断がつかないらしい。
雨の熊野古道中辺路もいいものだ。すべてが生きいきとその存在の輝きをましている。
当時、滝尻の石船川を渡ることによって禊を行い、滝尻王子を起点に本宮への参詣道へ分け入っていたという。
滝尻王子が神域の境界としての意味を持つ場であることが理解できるし、世界遺産もここ滝尻より登録されたのであろう。
78滝尻王子社
滝尻王子社は熊野古道に祀られた熊野権現の御子社の一つといわれる。 滝尻王子社は、九十九王子の中でも格の高い「五体王子」に数えらている。 熊野古道中辺路(なかへち)の真中に位置し、熊野の聖域すなわち熊野三山へと至る重要な社であった。
中辺路の起点となる「滝尻王子跡」には、車を利用する人たちのために王子跡碑から200m先に立派な駐車場が完備されている。 よく手入れが行き届いた公衆便所も近くにある。 中辺路への出発前の着替えや水の補給に使わせていただいた。早朝にもかかわらず、上品なおばさんが清掃に励んでおられた。 出発のとき「お気をつけて」、ひかえめな一言に大雨も慈雨にかわった。
なぜ滝尻王子が熊野古道中辺路の出発点なのであろう。
それは先でものべたように、神域の境界だからであるらしい。
実際、JR紀伊田辺駅近くの「出立王子」よりスタートし、秋津皇子・万呂王子・三栖王子・八上王子・稲葉根王子をへて富田川にそって滝尻王子までは川沿いの平坦な道がつづく。
しかし、滝尻王子からは山の中をくぐり抜けていく神聖な御山の山道となる。
そしてあらたなる、すなわち再生した人間として熊野詣をここ滝尻よりはじめたと考えたい。
滝尻王子から熊野本宮大社まで続く中辺路を「御山」と言って、熊野権現の胎内と見なしていることからもわかる。
滝尻王子裏からはじまる急な尾根をのぼり、しばらく行くと岩場に出る。 「胎内くぐり」とある。 わたしも熊野権現の胎内をくぐって赤子の気持ちで中辺路を歩いてみたいと思って挑戦した。
しかし胎内への入口は広くひらかれており、出口での悪戦苦闘にあえぐとは想像もしなかった。 頭はでても体がでない、ましてやリュックを担いでの脱出は不可能である。みなこの胎内から無事出られたのであろうかと疑ったほどである。
世に出るには自力で難関を突破せねばならぬは世の常であるとしりつつももがいた。
難儀した胎内くぐりの出口 乳岩
とにかく工夫してなんとか胎外である神域にでられた。
わたしはあらたな神聖なる世界を歩くこととなった。
これはひとりの人間の誕生や生まれ変わりとおなじ状況なような気がする。 生まれる、生まれ変わるとはよほどの覚悟と祈りと導きがないかぎりありえないということである。
こうして生かされている不思議に中辺路でなにを感じるのであろうか。
乳岩をへて急な山道を上って行くと不寝王子に出る。
雑木林の階段をのぼっていく不寝王子跡にでる
◎79 不寝王子(ねずおうじ) <79不寝王子▲198m ⇒ 80大門王子▲564m>
D:距離 約5km H:所要シニア時間 : 3時間10分
乳岩より急な山道を上って行くと右手に樹林が開けたところにでる。
中辺路における滝尻王子についでの不寝王子跡であり、その石碑のうしろに解説板がある。
79不寝王子跡全景(手前に押印台)
しかし熊野古道そのものが歴史的にも地理的にもいまだ解明されているとは言えないようである。
今後のさらなる歴史的研究が必要なようだ。
すなわち熊野古道は数世紀というながきにわたって日本人のあいだで忘れさられていたのである。
すなわち廃道であったのだ。古道再興に汗した地元のかたがたの努力に感謝したい。
古道は立派に再生への道を歩んでいた。
熊野古道は人類に果たすべき役割と使命が厳然として存在することを歩いてみて知った。
それはわたしの尊敬する中村天風師が教える「人生にからまり存在する幽玄微妙なる宇宙真理」にふれたことである。
それぞれの巡礼路には歩く人々の背負った宿命を癒す、導きの光りがあるのだとおもう。
わたしもカミーノを歩いたが、巡礼者は神のもとに近づかんと聖者ヤコブの墓を目指して850kmものながき巡礼路を28日もかけて歩き続けるのである。 この道中にあって、懺悔し、神を仰ぎ、再生を願い、世界平和を願う。
わたしがこの熊野古道中辺路で出会った巡礼者の8割の方がカナダ・スペイン・オーストラリア・アメリカなどからの外国の方々であった。 かれらが一様に口にする言葉は“ What’s a wonderful nature !! We are refreshing our soul “ であった。
かれらは自然の中の多くの霊たちとの交感に、魂の浄化を感じるのであろう。
かれらは歴史的に確定されていない解説板よりも、熊野の聖地に流れる谷間から聴こえる声明(しょうみょう)や魂を温めてくれる杉木立ちからの木漏れ陽に感動し、生かされている自分を再発見しているのである。
わたしたち日本人はかかるわれわれの遺産を世界に開放し、人類と世界平和の聖地としていることに誇りをもつべきである。
一度ぜひとも、できれば独りで熊野古道を歩いてみてほしい。
⇒熊野本宮大社ルート : 徒歩巡礼》 8月23日 へつづく