shiganosato-gotoの日記

星の巡礼者としてここ地球星での出会いを紹介しています。

『星の巡礼・ユーコン紀行』 <ユーコン・ カヌーの旅360km日記> ②

 


■「テスリン・ユーコン川 カヌーの旅360km日記」  ②

●  2日目  <9月17日>
 
第一日目のキャンプサイト630分、ドイツからのモーターボートによるリバーツアーのキャンパー達に挨拶をして野営地をあとにした。テスリン川はいまだ眠りから覚めず、どす黒い緑の流れが横たわっている。
 
河岸を離れて、どれほど下っただろうか、財布やパスポートの入ったポーチが腰にないことに気付くと同時に、テスリン川を遡上(逆走)し始めたのだからパートナーもビックリ。あの時の慌てぶりは笑いものだが、約2kmを流速約6km/Hに逆らって漕ぎあがるという珍プレーもまた後々までの笑い種として、いまだに残っている。
結局は、荷物の隙間に隠れているポーチを発見、一件落着とあいなったが、キャプテンとしての威厳を損なう失態を、初っ端からやらかしてしまったのである。
ただ、ユーコンを逆走したという勲章だけは、いまだわが胸に光り輝いていることは確かである。
 
<強風にカヌーが 停滞・ 漂流する>

向かい風が吹きつけると、テスリン川の流れの表面が川上へ逆流することがある。
ただでさえ川上へ風圧で漂流するカヌーを、少しでも制御するために二人とも仰向けに寝そべり、風を避けるため天を仰ぐこともあった。 手漕ぎではいかんともし難い時間が半時間ほど流れていった。
強風でも本流に乗れば前進することが、経験で少しづつわかってきた。

その本流を探すのに経験がいるのだ。カヌーに乗っている川目線のパドラー(漕ぎ手)には川の流れを視認することがむつかしい。 時には本流を探すために両岸を往復して探す事さえあった。
こういう強風の時は、テスリンもユーコンもカヌーを受け付けてくれないのである。パドラーをいじめて喜んでいるユーコンの強風をテスリン川で味わうことになってしまった。
必死にカヌーを漕いでユーコン川下りは終わってしまうのではないだろうかと、一抹の不安と絶望感がよぎった。


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強風・向かい風による停滞・漂流・逆走もある

もしユーコン川に横たわる50kmに及ぶラベルゲ湖を縦断してのカヌー下りであったらと思うと、その強風による壮絶な苦闘を想像するだけで恐ろしさがわき起こってきた。
テスリン川のジョンソンズ・クロッシングからのスタートの有り難さがわかるというものである。
強風を過ぎると、穏やかな川にもどる。 何事もなかったように、流れに乗った葉っぱのように、眠気を催す
ような平和な時間へ誘ってくれる。静かだ。

両岸の景色もユーコンの秋の風情にもどり、黄葉がまぶしく太陽を照り返してくる。
ムース親子も穏やかな川で水を飲んでいる。 白頭鷲も枝にとまって獲物を悠然と狙っている。
闖入者の漂流を珍奇に眺めているワイルドな世界が展開する。
両岸に点在する廃キャビンもまたテスリンやユーコンの風情を演出ている。
強風による前途多難を予想させたテスリン川の顔はどこに行ってしまったのだろうか。穏やかだ。


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 川沿いにある 廃キャビン(丸太小屋)


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                 カヌーからのスケッチ「ユーコンの秋」


テスリン左岸近くに廃屋のキャビンが残るキャンプサイトに上陸することにした。 廃小屋(キャビン)に入ってみると、屋根もあり万一の風雨をもしのげそうである。 ただ内部は荒れていたので入口にフライシートを張り巡らせて風よけとして、寝床を作ることにした。

テスリン川スタート地点、ジョンソンズ・クロッシングより先行していたカヤックのW氏も合流、火をおこして夕食の準備にとりかかる。
 
オールド キャビンの周辺に狼やグリズリー・ベアーの足跡が多数あったので、夜通しの焚火をすることにして、流木や枯れ枝をたくさん準備することにした。
やはり仲間が一人でも多いことは何かと安心安全である。 グリズリーの襲撃に対して、交互に火の寝ずの番をしたこともユーコンの懐かしい思い出となった。
夜を徹して煙にむせびながら飲んだ、焼き枝が混じったコーヒーもまた野性的でおいしかった。揺らぐ焚火、跳ねる火種が原始の闇夜に踊り、温かさが体の芯にほのかに伝わってくる。


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             川岸に残るオオカミ と グリズリー・ベアーの足跡



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2日目のキャンプサイト・オールドキャビンと焚火・熊足跡
 
 
 
 
● 3日目  <9月18日>


交代で焚火番をしながら朝を迎えた。


闇夜から次第に明るさがユーコン大自然を染め上げていくさまは、旧約聖書の物語の中で、この天地を創造するさまに立ち会っているような美しい瞬間である。こころにも明るさが満ち満ちてきて、生かされている喜びが徐々にひろがって行く。


焚火跡や野外トイレを自然に戻し、祈りを捧げてキャンプサイトをあとにする。


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             3日目の 朝一番、焚火でユーコンの水を沸かす

 
グリズリー・ベアーの足跡が残る川岸と、そして一夜を共にしたW氏にひとときの別れを告げてテスリンの流れに乗った。


今日はどのような景観と物語と冒険が待っているのだろうか、こころ踊る。川の流れとカヌーに身をまかせた
われわれは、ユーコン大自然に溶けて流されるままである。


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テスリン川の情景
 
 
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  3日目キャンプサイトに到着、 リバー・ツアーのモーターボート隊が先着していた

 
9月下旬のテスリン川には、一艘のカヌーもカヤックも見当たらず、われわれのカヌーだけが流れに乗って、ゆっくりと流されていく。


自然の流れに逆らわず、黄葉のユーコンの大地を切り進んでいくカヌーからの眺めの雄大なこと、一枚の葉っぱのようなちっぽけなカヌーに身をまかせている命のはかなきこと、真っ青な天空のキャンバスに一点の白い雲が浮かぶさまの純真なこと、まるでインド・バラシナのガンジス河畔での沐浴・瞑想の世界である、いやけがれ無き神の世界である。


人間という汚れの流れを離脱し、こころの精神世界に誘い込むという一瞬を、ユーコンはすべての訪問者にプレゼントしてくれているのだ。


13:00 ~14:10 砂地に上陸してのランチタイムをとる。  感謝をささげ、ハム・コースロー・ナン・ドーナツ・コーヒーをいただく。 美味い。


ランチ休憩も忙しい時間である。湿ったフライシート、簡易テント、スリーピングバッグ、ライフジャケット、衣類、手袋などを天日に乾かす。 ユーコンの自然観察もまた大切である。 河岸の湿地にはカリブーやグリズリー・ベアーの足跡が多く残されている。たぶんかれらも水補給をかねてピクニックにやってきたに違いない。 野生動物の家族の足跡を発見しては、その家族を想像する楽しさにふけった。


小さなユーコンの白い蝶を追いかけたり、ラクーン(狸)とにらめっこして水場のとりあいっこをしたり、白頭鷲を撮ったりと、実に愉快な時間を過ごすのである。
水の住人、アメンボーが陸(おか)に上がったように足をふらつかせるさまに似ている。 一日の大半を水の上で過ごし、上陸するわずかな時間の大切なこと、走ったり、記録をつけたり、現在地を確認したり、写真をとったり、用を足したり、と結構忙しいものである。


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ランチタイムに上陸して休憩
 


この日ユーコンは、朝からの大荒れから対照的な晴天でうららかな日和に変わった。


テスリン川も無風になり、静かな流れに変わるや、ユーコンの黄葉を川面に映し、その美しい風景に魅入って

しまった。カヌーの上では、秋陽に誘われてうとうとしてしまうほどで、いつしか時の流れに身をまかしている間に、寒さも加わり気付いた時には、今夜予定した野営地を行き過ぎて、10km先の現在地に上陸し、野営の準備に入った。


<川面目線から見るテスリン・ユーコン川の風景>


テスリンとユーコンは、カヌーに沈みこむと9月の下旬の秋の夕暮れのように灰色が重くのしかかってくる。

両川岸はグレーの世界に入る前の黄葉の世界が広がっている。

黄葉を写す深淵の水の色が対照的で、テスリン・ユーコ両川の美しい創造の世界が続く。


昼間、両岸に沿う樅ノ木、その背後に控える山並みを見ながらのパドリングは眠気をさそう。うとうととしながらテスリン・ユーコンの流れに身を任す、なんと豊かな時の流れであろうか。

両川の悠久の流れにおのれを預けることの幸せを味わうことができる。


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テスリンの流れからみる紅葉 と 遠方の雪帽子の山並み



<テスリン川第三日目の野営>は、ここGPS<61°22'04"N/134°40'06"W>地点手前左岸の森林地帯を野営地とした。


森林地帯をバックにしたGoodHigh Water Camp地であり、河岸から急な崖を上ったところにある理想的なキャンプ・サイトである。 河岸には2艇のモーターボートが繋がれ、サイトではすでにテント設営が終わっており、火床では枯木や流木が赤々と燃え盛り、ビーフの塊やビッグ・ソーセージが音を立てて焼かれていた。

周りにはビールやバーボンを片手にボート・ツーリングを楽しんでいるドイツ人3組のカップル、男女6人がユーコン大自然に興奮冷めやらない風情でおしゃべりに夢中である。


第一日目に出会ったグループであり、再会を喜びあった


カヌーの旅を続けるわれわれとちがって、ガイド付きの料理付、完全装備にパワーエンジン付き高速艇と趣きは異なるが、そこはおなじくユーコンを愛でる仲間であり、お互いにそれぞれのシチュエーションを認め合うことに時間はかからないものである。

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モーターボートによるリバーツアー隊のキャンパーのみなさんと共に
 

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 リバーツアー隊のみなさんの豪華なサイト


ほかにも同宿の仲間がいた。ホワイトホースからテスリン川沿いにある林道や獣道を馬でやってきて、狩猟を楽しんでいる現地の男性二人である。 服装も装備もカウボーイである、いや西部開拓者といっていいだろうか。ここユーコン大自然に溶け込んだスタイルであり、ゴールドラッシュ時の山師を見るが如くであった。

この二人のユーコン生活に大変な興味をもった。



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120年前の金鉱探しの野宿姿

こちらも青春時代、ブラジルの山奥であるカンポス・ド・ジョルドンで牛を追い、牛泥棒から牛を守るため馬にまたがり、ウエンチェスター銃を手にかざして、野宿していたからである。

切り取った枝を、二本の立木に渡し、シートをかぶせてロープで引っ張るだけの簡単なツエルト(屋根だけの簡易フライテント)の中で、珈琲を煮込んでいる薬缶から香ばしい匂いが流れ、焚火をかこんで毛皮のシートを敷き、長皮靴を投げ出して猟銃の手入れをしているさまは、まさにわが青春の姿であったからである。


みなさんに挨拶を交わしたあと、暖をとらせてもらいながら夕食<トマトソース・スパゲッティ、野菜サラダ(トマト&トマト)、スープ、コーヒー、ウイスキー>を済ませたあと、先客の邪魔にならないようにわれわれの小さなかわいい簡易テントを立てて、ユーコンの闇に溶け込んでいった。今夜はグリズリー・ベアーの来訪もなさそうである。


 
                   「テスリン・ユーコン川 カヌーの旅360km日記」  ③
                          につづく